【失恋】大好きだった先輩が婚約していた話

 

※この記事は寄稿です。

 

 

 

皆さんには、忘れられない恋の経験はありますか?

忘れようとすればするほど、胸の底から燃え上がってくる気持ち。

はたまた、燃え切ったはずなのに、未だその煙を燻らせているあの頃の気持ち。

 

今回は、どこにでもいるような普通のサラリーマンであるぼくに起きた

ちょっぴり切ないストーリーをお話しします。

自宅待機でお暇中のそこの君。是非読んでいってください。

 

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先輩との出会い

話は、ぼくが学生だった頃に戻ります。

当時ぼくは、練馬にある古臭い居酒屋でアルバイトをしていました。

いつ潰れるかわからないような木造二階建て、

そこでぼくは堀江さんという、2つ年上の女性の先輩と

常にふざけながら、ときに真剣に、仲良くアルバイトをしていました。

 

堀江さんは顔もスタイルも文句なしだけど少しだけ男運に恵まれない、ザ・女子大生。

ぼろい居酒屋であははと笑いながら働く小倉優香さんを想像してもらえると分かりやすいです。

そしてぼくは、とても男らしいとは言えないけどヘアスタイルの束感だけは気にする、

典型的な男子大学生でした。

家電大好き芸人の土田晃之さんと神木隆之介くんを足して2で割った顔とよく言われます。

大学は違うぼくたちでしたが、週に3回はバイト終わりに飲み、

「将来は〇〇の業界に入って地元の役に立ちたい」

なんて真面目な話から、

「今朝出したウ○コはでかすぎてまじでビビった」

なんて下品な話まで、

なんでも話せる親友であり仕事仲間っていう感じの人でした。

最寄りの駅が同じだったこともあり、

千鳥足で踊りながら一緒に帰ったりと、かなり深い仲でした。

よく他のバイトのおじさんに

「おまえらどういう関係だよ!昨日やらずに帰っただろうな!?」

などと冗談で怒られていました。

そんなことを言われ続けるうちに、

ぼくは、堀江さんのことを女性として好きになってしまいます。

 

まあ、ここまではありがちな展開ですよね。

自分で言うのもなんですが、たぶん、「いい感じ」だったと思います。

ですが、ひとつ大きな問題があったんです。

それは、当時のぼくに、同じ大学に通う彼女がいたこと。

 

堀江さんへの恋心に自覚が芽生えたのは、その彼女と一年記念日を迎えたまさにその頃でした。

夕飯も喉を通らなくなるほど迷って、苦しみました。

今の彼女に別れを告げて、堀江さんにアタックすることも考えました。

ですが、当時のぼくは、ファミレスのメニューでかなり迷うタイプでしたし、

何より、彼女を振ってまでアタックして堀江さんに振られるのが怖い・・・

そんな思いに支配されていました。

 

堀江さんも自分のことが好きだなんてことは無いだろう。そう感じていたからです。

結局、ぼくは彼女と付き合いつづけることを選びました。

そしてその頃、堀江さんは大学4年だったので、

堀江さんが居酒屋を卒業するまでの3ヶ月間、必死に自分を偽り続けました。

堀江さんと同じシフトの日は動揺して、よくお皿を3枚同時に割ってたりしました。

想いを隠し続けているうちに、ついに堀江さんも無事に大学と居酒屋を卒業し、

それからはぼくの恋心も一旦落ちつきました。

ですが、堀江さんが居なくなったにも関わらず、居酒屋で働く日は勿論、

何をしている時も、彼女といる時でさえ、

堀江さんが調理器具のバーナーをふざけてぼくに向けていたときのあの笑顔を思い出してしまいます。

堀江さんがぼくの脳内でバーナーを着火する時、ぼくの想いもつい再燃してしまうのです。

その度に、

「まあ、いっか。過去のことだし。どうせ両思いじゃなかったし。」

そんな自分への言い訳をして、誤魔化していました。

堀江さんとはSNSでこそ繋がってはいましたが、

特にメッセージを送ることもなく、

ただただもどかしい気持ちが風船のように膨らんでいくばかりでした。

そして、そんな生活がだらだらと2年間も続きました。

 

当時の真実

ついにぼくの卒業も近くなってきていたある日、

高校生の時からお世話になっていた、宮野さんというパートのおばさんと

休憩中一緒にたばこを吸っていた時の話です。

なんとなく堀江さんがいた頃の話で盛り上がり、

卒業間際だったこともあり、ぼくは宮野さんに打ち明けました。

「おれ、堀江さんのこと好きだったんすよねえ。」

それを聞いた宮野さんは、煙を吐きながらしれっと

 

「ああ〜そういえば堀江もあんたのこと好きって言ってたよ。」

 

不意打ちにやられ、慣れていたはずのたばこにむせるぼく。

咳が止み、5秒間の沈黙を経て、ぼくは聞きました。

「・・・それは、恋の意味で、ですか?」

煙を吹きながら宮野さんは答えました。

「うん。言うなって言われてたけど・・・まあいいや」

たばこを吸っていたことを忘れていたぼくの右手から、

灰が崩れ落ちて風に飛ばされました。

それと同時にぼくの心の内側の何かも同時に崩れたようでした。

激しい後悔とともに。

「あんたに彼女いたから堀江もアタックできなかったらしいよ。

ずっとあんたのこと待ってたんだって!勿体無いねえ・・・」

 

なんであの時行動していなかったんだろう・・・

それから半年ほど経った頃。

ぼくはいわゆる商社マンになり、研修を終え、覚える仕事も増えてきた時期でした。

電子部品を取り扱う会社だったので、スマホの内部基板や半導体やらが

うちの主力商品でした。その中でもぼくの担当は、「バッテリー」の開発発注。

「おいツッチー(ぼくの仮名)、おれがバッテリーのこと教えてやるから今夜一杯どうだ?」

なんていうふざけた先輩からのお誘いにも全力でついていきました。

上司に誘われる飲み会は一切断らず、それ以外は夜11時まで残業。

そんな日々を送っていたツケが回ってきたのかも知れません。

疎遠になっていた彼女の浮気が判明し、別れることになってしまったのです。

悲しみなのか怒りなのか、よくわからない感情にもみくちゃにされたことを

今でもよく覚えています。

 

当時むしゃくしゃしていたぼくは、つい勢いで

「仕事の愚痴たまったんで、飲みながら聞いてほしいっす!(笑)」

なんていうLINEを堀江さんに送ってしまいました。

それが数年ぶりの会話という事実は一切頭に入っていなかったと思います。

仕事の愚痴よりも伝えたいことがあって誘ってみたのは言うまでもないんですけどね。

そう。数年越しの告白をかまそうとしていたのです。

まずい・・・

誘ってみたはいいけどそもそも数年ぶりだし

告ったところであの人モテるから彼氏いる説もあるよな・・・

やべえ・・・

ぼくは送信ボタンを押した後でそんなことを考え始めました。

ですが、そんなぼくに彼女は考える暇も与えてくれませんでした。

なんと1分後には返事が来たのです。

着信音が鳴った0.5秒後に開いたそのLINEには、

「久しぶりー!どうしたの急に!わたしもツッチーくんと話したいって思ってたとこだよ!」

ぼくの胸はまるでインド映画のそれのように踊りました。

忘れずにいてくれたどころか、話したいってなんだ!

やっぱおれのことまだ好きなんじゃないのかこれは???

やたらスマホの画面が眩しく見えたのは、

そのメッセージに大量に散りばめられていた絵文字のせいなのか、

それともぼくの目にかかっていた恋のフィルターのせいなのか。

返信を考えているうちに、

さっきまで50%あったはずのスマホの充電が、いつの間にか15%になってたことに気付きました。

スマホに内蔵されているバッテリーの平均寿命は約2年。

それ以降使い続けると、だんだんとエネルギーの供給効率が落ちてくるのですが、

エネルギーが下がるのに反比例して、熱を持ちやすくなってしまいます。

つまり空回りしてしまうのです。

それは、機械音痴だったぼくが最初に会社で教わったことでした。

バッテリー交換しなきゃなあ・・・

そう思いつつも、大好きな先輩とメッセージを交わしているぼくには

全くどうでもいいことでした。

偶然にも二人とも定時上がりの日だったので、

その勢いで連絡を取ったその夜に飲むことになりました。

待ち合わせは堀江さんのリクエストで、池袋の西口でした。

 

先輩と池袋へ

うるさい大学生が飲み騒いでいる東口とは違って、

西口は、大人のバーやラブホテルが立ち並ぶ妖しい街。

スーツ姿で手を繋いで歩くカップル達を見て、

背徳的な期待を寄せながら、堀江さんを待っていました。

「ごめん、おまたせーっ!」

そう言いながらも歩いてこっちに向かってきたのは、

想像していたよりも少しだけオバサンになった堀江さんでした。

とはいえ可愛い。

「あれ、老けました?遅いっすよー」

2年前と変わらぬノリで言い放った冗談に、彼女は少し頬を膨らませて

「うるさいなあ!久しぶりに会ったのにもっとなんかないわけ?!」

とちょっかいをだしてきました。

入ったお店は、少しだけ大人向けって感じの焼き鳥屋さん。

席に座るなり、いつも通りの「とりあえず生二つ!」をして、

いろんな会話で盛り上がりました。

一緒に働いてた居酒屋がいま潰れそうで大変らしい、とか

いまの仕事大変すぎて、バイト時代に戻りたい、とか。

そんなたわいも無い会話をしているうちに、話題は恋愛に発展し、

「バイトしていた頃、わたし結構○○くんのこと推してたなあ。」

この一言が飛び込んできました。

既に5杯飲んでいたアルコールのせいか、

若干、彼女の頬が赤く染まっているように見えました。

「ここで、言うしかない・・・」

そう感じました。

”おれ、先輩のことずっと好きでしたよ。”

 

この言葉を5回ほど頭の中で繰り返したのちに、

口を開いて、砂漠のように乾いたのどから声を出しました。

「お、お、おれ・・・」

「あたしね」

開きかけた口を閉じることもできず、完全に 会話の主導権を握られました。

ぼくがえっ、と聞き返すと、

 

”彼氏いるんだ。こないだプロポーズもされたの”

 

乾いた砂漠に雷を落とされたような気分でした。

一瞬なにを言われたのか理解できず、3秒間口を「お」のままにして思考しました。

 

その結果捻り出したリアクションは、

「お、お、おお、いいっすねぇええええ!!!」

自分が思ったよりも大きい声が出てしまったようで、

焼き鳥屋さんにいた人間全員がこちらを見ていました。

そこから、先輩は、彼氏が優しくて最高だとか、

いまの彼氏とするのが一番気持ちいいとか、

ぼくにとっては一番聞きたくない内容をマシンガンのように浴びせてきました。

 

その度に捻り出すぼくのリアクションは

「いいっすねえ」

この一択。バリエーション皆無でした。

言いたかったことが言えなかった上に

ガードしていなかった方向からカウンターを喰らったぼくは、

ずっと淀んだ気持ちで先輩の話を聞かされました。

調子はもちろん最悪でした。ここまでビールが美味しくなかった日はありません。

 

焼き鳥屋さんを出た後も、

「あっ、まだ9時じゃないですか、もう一軒・・・」

「ごめんね!明日早番なんだよねー」

手も足も出ないとはまさにこのことで、大人しく帰ることにしました。

二人で揺られる西武池袋線。

なんだか急にばつの悪い気持ちになったぼくは、

なんとかおもしろい話をしようとするのですが、

まあ全部見事に滑りました。

それでも滑ったぼくを見て笑ってくれる堀江さん。

そのフォローのつもりの笑顔がぼくをもっと苦しめているとは、

きっと彼女は想像もしていなかったでしょう。

次はー練馬、練馬。お出口は右側です。

やる気のなさそうな車掌さんの声にハッとして

思わず先輩の手を引いて、練馬で降りました。

ぼくらのバイト先になら、きっとついてきてくれる・・・!!!

下心丸出しのお猿さんみたいで、今思えば結構恥ずかしいです。

そして、元バイト先に着いてぼく達が目にしたのは

「閉店のお知らせ」と手書きで書かれた貼り紙でした。

どこまでも運が悪いのだなと感じました。

薄汚れたシャッターに蹴りを入れたくなりましたが、先輩の前だったので我慢しました。

 

「やっば。本当につぶれちゃったんだね。残念だなあ・・・帰ろっか」

「・・・さーせん」

この一往復だけ会話をして、再び改札を通りました。

最寄りの星見台という駅に降り、

ぼくは南口、堀江さんは北口が帰宅方向でした。

ぼくが何も言えずにいると、堀田さんはなにか少し物足りなそうな顔で

「なんか、言うことないの?」

そう言いました。

この時「好きでした」と言いたかった。

それか、家まで送りますよの一言だけでもかっこつけたかった。

その2択で迷っていたところに、

急に自分が付き合ってた彼女に浮気された時の気持ちを思い出してしまいました。

確かに、ここでアタックすれば

もしかしたら、もしかしたら秘密の関係なんかにもなれるかもしれない。

だけどそれは、確実に誰かが傷つくことになる・・・

膨らんだ風船の出口を縛るようにして気持ちを抑え、

出てきた言葉は

「お、お、お・・・おつかれっす!」

「・・・おつかれ、今日はありがとね」

堀江さんは少し残念そうな顔をして

ぼくに背を向けて歩き出しました。

小さくなっていく先輩の姿を見るのがただ辛くて、

ぼくもすぐ反対方向に歩き出しました。

 

ぼくの気持ち

3分ほど歩いて、駐輪場から自転車を出した時です。

このままではいけない気がして、

また、考えるよりも先に

ペダルを強く踏みつけて、全速力で堀江さんを追いかけました。

夜なのにスーツで全力で自転車を漕ぐサラリーマンの姿は、

きっと他の人が見たら相当変な人だったことでしょう。

追いかけること1分。

先輩の後ろ姿は未だ見えません。

そして、ぼくはこの時点であることに気がつきます。

堀江さんの家・・・知らねえ。

そう。いくら最寄り駅が一緒とは言え、

彼女の家まで送ったことはなかったのです。

そうだ、思い切って電話して、待っててもらおう。

そう思いついてぼくは自転車に跨ったまま

ポケットからスマホを取り出しました。

話す内容なんて考えずに、

先輩のアカウントの電話ボタンをタッチして

震える手でスマホを耳に当てました。

LINEの着信音が1コール分が終わるよりも先に、

先輩の声が聞こえました。

「もしもしツッチーくん、どうしたの!?」

「おれ!!!おれ・・・話忘れたことがあって。」

電話の向こう側は沈黙。

まだ外に居るのでしょうか、風がマイクに吹き付ける音だけがノイズで割れて聞こえました。

畳み掛けるように話しました。

「いやすっげー大事なこと話忘れてて!!

この話絶対堀江さんにしたくて・・・すげー面白い話なんですけど!今から話に行くんで場所教えてください!」

再び沈黙でした。

5秒ほど待ちましたが、今度は風の音すら聞こえません。

最悪な予感がして、耳からスマホを離しました

画面を見ると、宇宙のように真っ黒い画面が

ただぼくの不細工な顔を反射させていました。

電源ボタンを長押ししてみると、

ぼくの顔が反射しているちょうど鼻のあたりに、

「バッテリー」のマークが映し出されるのみでした。

バッテリーが切れてしまったのです。

ただの四角い充電のマークが、

世界で一番残酷な標識に見えました。

しかもその日、モバイルバッテリーも運悪く家に忘れた日でした。

残酷なバッテリーマークの脇に、

ぼくの流した涙が反射して光りました。

自宅に帰り、憎たらしいスマホに充電コードを挿しました。

皮肉なほどに早く光を取り戻した画面には、堀江さんからの着信が3件と、

「ごめん!心配だけど家帰るね!彼氏待ってるし!」

のメッセージ。

おれは、これ以上はもうやめようと、

諦めに近い感情になりました。

「大丈夫です!めっちゃ面白い話し忘れただけなんで!笑」

1時間後に返ってきた内容は、

「えー何それ!気になって寝れないよ、明日早番なのに!」

ずるい人だなあ。なんだか悔しかったです。

最後に送った強がりのメッセージは

「いや、ただの面白い話ですよ!笑

今度会ったときに話します!覚えてたら!」

また1時間後に返ってきたのは

「わかった!今度直接教えてね!覚えてたら!」

でした。

 

あれから1年ほど経ち、

堀江さんは結婚式を挙げ、子供も出来て出産ももうすぐなようですが、連絡は取ってはいません。

なんだかこのままの方が良い気がするからです。

ぼくはと言えば、バッテリーの営業で好成績を収め、

業界でちょっとだけ有名人になっています。

ぼくが毎回営業先で話すのは

「バッテリーも恋も、寿命は2年。」なんていうおもしろくて切ないエピソード。

「おれがバッテリーの大切さを教えてやる。」

なんて誘い文句で飲みに連れて行く後輩も出来ました。

この忘れられない経験から、

目の前にあるチャンスはすぐ掴む。

そういう意識を持てるようになり、仕事もうまく行くようになりました。

そして、バッテリーの交換も忘れないようになりました。(笑)

切なすぎる恋でしたが、これを機に強くなれた気がしているので、自分の中ではハッピーエンドです。

お読みいただきありがとうございました。

皆さんもスマホのバッテリー切れにはお気をつけ下さいね。

 

FIN.

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