【ドラえもん】のび太がジャイ子を殺して死刑になる話

そんな中、容疑者として名前が上がったのがのび太さんだった。
のび太さんはジャイ子ちゃんをキッチンハサミで刺した後、クローゼットから彼女のワンピースを一着盗んで逃走した。
それを目撃していたのがジャイ子ちゃんの注文で寿司を届けに来た宅配スタッフだった。
室内には争った跡と、のび太さんの指紋が残されており、言い逃れは出来なかった。
警察から同行を求められたのび太さんは、その場で罪を告白。
以降、自ら極刑を望む発言を繰り返す。

しずか「のび太さんは真犯人を庇っているような気がするの。だって行動がおかしすぎるわ。なぜジャイ子ちゃんのワンピースを盗んだのか」

スネ夫「ハサミについた血を拭き取るためらしいね」

しずか「犯行場所はキッチンよ?血を拭き取ろうと考えたのなら、すぐそばにタオルや布巾があったはずだから、それを使えばいいじゃない。もしくは水道の水で洗い流すとか。わざわざ寝室まで行って、ワンピースを持って来るという行動の意味がわからないわ」

スネ夫「気が動転してたってのび太は言うけど、凶器のハサミを現場に残しておいて、今更血を拭き取るも何もないよな。うん、のび太の発言はおかしい」

しずか「それに現場がキッチンなら、当然包丁があったはずなのに、なぜ凶器にキッチンハサミを選んだのかも怪しいわ」

スネ夫「包丁なら外国製の高級品が一式、シンク横に陳列されていたらしいよ。あ、ちなみにその包丁はジャイアンがプレゼントしたものらしい。キッチンハサミは確か三段目の引き出しだったかな」

しずか「すぐ手が届くところに包丁があったのに、わざわざ引き出しを開けてハサミを取り出した。これも謎ね」

 

ドラ「のび太くんとジャイ子ちゃんは普段から交流があったのかい?」

スネ夫「ジャイ子ちゃんの創作の相談に、のび太は度々マンションに呼び出されていたらしい。だから事件があった日もそうだったんじゃないかな」

しずか「注文したお寿司は二人前だったらしいし、きっと食事をしながらのび太に相談するつもりだったのね、ジャイ子ちゃんは」

スネ夫「あ、あのさ、そのことなんだけど…」

そこでスネ夫さんがおずおずと切り出した。

スネ夫「僕がのび太の事件で、弁護士や探偵を雇っていたっていうのは話しただろう?」

しずか「ええ」

スネ夫「それでわかったことなんだけど、現場のマンションに、食べかけのカレーの皿が残されていたらしいんだ」

ドラ「カレー?」

しずか「それがどうしたの?」

スネ夫「よく考えてみろよ。これから寿司が届くって時に、カレー食べる奴があるか」

ドラ「よほどお腹空いてたのかなぁ」

スネ夫「カレーの入った皿は一人前しかなかった。てことはのび太かジャイ子ちゃんのどちらか一方が食べたことになる」

ドラ「ジャイ子ちゃんの遺体の解剖結果は?」

スネ夫「それはさすがに入手できなかったけど、調べによるとジャイ子ちゃんはダイエットに熱心だったそうだ。映画の原作者としてメディアに出ることも多かったから、見た目に気を遣っていたんだろうよ」

しずか「ああ私、ジャイ子ちゃんの情熱大陸見たことあるわ」

スネ夫「マンションの中からは大量のダイエットグッズやサプリメントの類いが見つかっている。そんなジャイ子ちゃんが、寿司の前にカレーを食べるわけない」

ドラ「じゃあのび太くんが食べたんじゃないの?」

スネ夫「カレーはジャイ子ちゃんの手作りだった。僕はのび太に面会した時、カレーについて訊いてみたんだ。すると奴はなんて答えたと思う?」

しずか「何かしら」

スネ夫「ジャイ子ちゃんのカレーはおいしいんだけど僕にはちょっと辛すぎる。のび太はそう言った。だけど実際にマンションに残されていたカレールーのパッケージには甘口という表記があった」

スネ夫「事件当日、ジャイ子ちゃんが近くのスーパーで甘口のカレールーを購入したという事実もおさえた。するとのび太の発言の怪しさに気付く。わかるかい?のび太はあの日、カレーを食べていないんだよ」

スネ夫「おそらく以前に食べたジャイ子ちゃんの手作りカレーが辛口だったから、その味を思い出して答えただけなんだ」

しずか「ジャイ子ちゃんとのび太さん、二人とも事件当日カレーを食べていないのなら、一体誰が食べたっていうの?」

スネ夫「あの日マンションにいた、三人目の人物さ」

スネ夫さんは震える声で言った。

スネ夫「三人目が誰なのか、もちろん僕はのび太に尋ねたさ。だけどのび太はマンションには自分とジャイ子ちゃんしかいなかったと言い張った。カレーは自分が食べたものだと嘘をついた」

スネ夫「本人がそう主張するのだから、僕は手の出しようがない。仕方なく諦めて、この件については忘れることにしたんだ」

スネ夫「だけど昨日しずかちゃんに言われた言葉でハッとしたよ。そうだ、のび太は三人目の人物を庇って、自分がジャイ子ちゃんを殺したと嘘の自白をしているんだ」

ドラ「よし、だんだん見えて来たぞ。のび太くんはやっぱり誰かを庇ってる。それはきっと、のび太くんにとって大切な人物、あるいはよほどの借りがある奴だな」

しずか「……」

スネ夫「ドラえもん、これで僕の知っていることは全部だ。どうかな?ジャイ子ちゃんを殺した真犯人を見つけ出せそうかい?」

スネ夫さんが尋ねた。
ドラちゃんは難しい顔で腕を組むと、そのまま黙り込んでしまった。
私はスネ夫さんに視線を送り、目だけで問いかける。
スネ夫さんは項垂れ、無言で首を振った。
そして、とうとうタイムリミットが来てしまった。

スネ夫「お願いします、もうちょっとだけ」

私たちを元の時代に帰すべく、タイムパトロール隊が迎えに来た。
特別時間旅行の手続きが終わったのだ。
スネ夫さんはなんとかドラちゃんとの時間を引き延ばそうと、パトロール隊員に懇願した。
だけど、私はもう充分だと思った。
たぶん私は、真犯人を知っている。

ドラ「しずかちゃん、これを…」

スネ夫さんが隊員をひき止めている間、ドラちゃんはこっそりと何かを手渡してきた。
ひみつ道具だ。

ドラ「小型化してあるからポケットの中にでも隠しておくといいよ。通常より小さい分、一度しか使えない。こんなことしか出来なくてごめんね。だけども君はすでに気付いているんだろう?」

しずか「じゃあドラちゃんも…?」

ドラ「そうだね、あまりいい結末とはいえないね。でも僕の一番の友人はのび太くんだから、僕はいつだってのび太くんの味方をしてしまうんだよ」

ドラちゃんもきっと辛いのだろう。
そうだ、私だって辛い。

しずか「きっとまた、私たち出会えるわよね?」

ドラ「僕はもう時間旅行出来ない。ここから先は君次第だよ、しずかちゃん」

しずか「さようならドラちゃん…」

私はドラちゃんに別れを告げると、スネ夫さんとパトロール隊員が言い争っているところへ戻った。
隊員は何かの書類を差し出し、署名をするように言った。
署名を終えると、私たちはパトロール艦に乗せられ、時空間へと入った。

しずか「すみません、これから戻る私たちの時代にも、予期せぬ時間旅行の末に迷い込んでしまった人達がいるんです。その人たちを元居た時代に送り届けることは出来ますか?」

私は隊員のひとりに尋ねた。
隊員は少し時間がかかるが、それはもちろんタイムパトロール隊の仕事であるので、可能だと答えた。
裏山に出来てしまった時空の歪みについても、すぐに修復作業に取りかかるという。

スネ夫「旅立った時のまんまだ…」

私とスネ夫さんは、元の時代の裏山に降ろされた。
時刻は私たちが時空の歪みに飛び込んでから、数分後だという。
タイムパトロール隊に礼を言って、その場を離れると、そのまま暗い山道を下った。

スネ夫「本当に戻って来ちゃって良かったのかい?しずかちゃん」

しずか「ええ、いいのよ」

私の足取りは軽かった。

しずか「別れ際にドラちゃんがひみつ道具をくれたわ。これで事件の真相がわかる」

スネ夫「いや、真相はだいたいわかってるんだよ。マンションにいた三人目の人物が犯人で間違いない。問題はのび太がそいつを庇っていることだ」

スネ夫「だから僕たちは、のび太がいくらそいつを庇おうとも、庇いきれなくなってしまうくらいの決定的な証拠を見つけなきゃいけない。死刑から一転、無実になるくらいの強力な証拠をね。ドラえもんの道具はそのために役に立ちそうかい?」

しずか「ドラちゃんがくれた道具は…これよ」

私はポケットの中のものを見せた。

スネ夫「こ、これは…?」

しずか「思い出再生機。小型版だから一度しか使えないけどね」

スネ夫「確か任意の人物の、任意の記憶を見ることが出来る道具…だったっけか」

しずか「ええ」

スネ夫「そうかこれで事件当日ののび太の記憶を見ればいいんだね。そうしたらあいつが嘘をついていることが明らかになる」

スネ夫「だけど…それだけじゃのび太を無実にすることは出来ないよ、ちぇっ、ドラえもんの奴、どうせならもっといい道具をくれたら良かったのに」

しずか「いいえ、これで充分なのよ。さあこの辺りで一度止まりましょう。思い出再生機を使うわよ」

私は裏山の中に、適当に拓けたスペースを見つけ、声を掛けた。
スネ夫さんと向かい合って、地面に腰を下ろすと、再生ボタンを押す。
そして私達は、事件のすべてを見た。

スネ夫「い、今のはのび太の記憶じゃないな?しずかちゃん、君は一体誰の記憶を再生させたんだい?」

スネ夫さんはガタガタと震え、恐ろしいものでも見るかような目で私を捉えた。

しずか「今のは…ジャイ子ちゃんの記憶よ。彼女の記憶を再生させるのは賭けだったけど、おかげで私の予想が外れていなかったことが確実なものとなった」

スネ夫「う、嘘だ!そんなことあるわけない…。そ、そうだよ、第一、思い出再生機では死んだ人間の記憶は再生出来ないはずだ!」

しずか「そうね」

スネ夫「ま、まさか…」

しずか「ええ、そのまさかよ。今この時代に、ジャイ子ちゃんは生きてるわ」

夜が明けて、私とスネ夫さんは、武さんの勤務先である病院に向かった。

武「朝っぱらからどうしたんだよ。俺は夜勤明けでくたくたなんだけど」

武さんは突然やって来た私たちを、腫れぼったい目で迎えた。

しずか「悪いわね武さん」

スネ夫「ジ、ジャイアン…ごめんよ…」

しずか「裏山で保護されたという少女に、面会させてほしいの」

武「しずかちゃんも諦めが悪いな。あの患者は心を閉ざしている。いくら呼び掛けても無駄だよ」

しずか「いいえ、会話出来るはずよ。だって武さん、あなたはすでにその患者と話しているでしょう?」

武「ま、まさか。馬鹿言うなよ」

武さんはわかりやすく狼狽した。
私は自分の考えが間違っていないことをさらに確信する。

しずか「606号室に入院している少女…。彼女以外にもまだもうひとり、裏山で保護されてここに入院している女の子がいるのよね?」

私は武さんを見据えた。
頭の中では、昨日病院の外で会った、フリーライターとの会話が思い出されていた。
女は、患者と面会してきた私に対し、こう問いかけたのだ。

『会ったんでしょ、患者に。ロクちゃんのほうだよね?』

ロクちゃんとは606号室に入院する患者の通称だ。
そして、ロクちゃんのほうという聞き方はこの場合おかしい。
そこで私は考えた。
“ロクちゃんのほう”ではない、“もうひとりのほう”がこの病院には入院しているのではないか。
ならばロクちゃん以外に裏山で保護された人物は入院していないと言い切った武さんは、私に嘘をついたことになる。
武さんは“もうひとりの入院患者”に私を面会させたくなかったのだ。

しずか「ジャイ子ちゃんはどこ?」

私が問うと、武さんは観念して、先を歩き出した。

武「ついて来な」

案内された先は、最上階の個室だった。

武「…ごめん」

室内に入る前、武さんは小さく呟いた。

ジャイ子「あ、お兄ちゃん!」

部屋の中、大きすぎるベッドの上に、ジャイ子ちゃんは居た。
昔のまま、ぽっちゃりとした頬が可愛らしい、おかっぱ頭のジャイ子ちゃん。

ジャイ子「お姉さんは誰?」

ジャイ子ちゃんは無邪気な笑顔を私に向けた。

しずか「お兄さんのお友達よ。よろしくね、ジャイ子ちゃん」

スネ夫「お、おいこれどうなってるんだよ…ジャイ子ちゃんが生きてるのはわかった。だけどなんで成長してないんだ?なんで子供の頃のままなんだよ…」

スネ夫さんは混乱し、掠れた声で言った。
武さんはベッドに近づくと、優しく諭すようにジャイ子ちゃんに話しかけた。

 

武「兄ちゃんはこのお姉さん達と大事な話があるから、おまえはもう少し寝ていなさい」

ジャイ子「えー?」

ジャイ子ちゃんは不満そうだった。

ジャイ子「お姉さん、お話が終わったら、あたいと遊んでくれる?」

しずか「ええ、もちろんよ」

ジャイ子「ふふっ…じゃあそれまでお絵描きして待ってるわ。お兄ちゃん、そこのスケッチブック取って」

武「ほらよ」

お絵描きを始めたジャイ子ちゃんを残し、私たち三人は屋上に上がった。
屋上からは、裏山の全貌が見渡せた。
昨夜あれほど歩き回り、果てなんかないんじゃないかと思われた裏山も、ここから見下ろすと案外小さい。

武「許してくれしずかちゃん…お願いだ見逃してくれ…」

武さんは屋上の床に頭を擦りつけて、詫びた。

スネ夫「ジャイアン…」

その様子に、スネ夫さんは困惑の表情を浮かべていた。

しずか「やめて武さん、私は別に武さんを責めに来たわけじゃないのよ」

私は武さんに頭を上げさせると、言った。

しずか「これ以上嘘を重ねるのはやめましょう。真実を明らかにしましょう」

 

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